2012年5月22日火曜日

関税暫定措置法第8条(通称:暫8)の話:その2歴史

週末に更新しようと思っていたのですが、会社に資料を忘れてきた為できませんでした(-_-;)
そんなこんなで今回は暫8の歴史から入りたいと思います。

加工再輸入減税制度については昭和44年に当初は機械類の加工を対象に創設され、その後平成元年に織物製衣類(HSでいうところの62類)を対象として、初めて繊維製品の減免税制度が導入されました。とは言っても当初は輸出を認められる品物はかなり制限されており、委託加工の内容についても、既に裁断されている生地やボタンなどの付属品を縫製、取り付ける工程に限定され、今では許されている生地の裁断などもできない制度でした。
当時は輸出の申告時に生地だけではなく、全ての付属品を封印して、輸入時に加工された製品と封印された物を見比べて、税関は同一性の確認を行っていました。先輩方に聞いたところによると、始まった当初は輸出申告から許可まで2~3週間も必要で、また輸出する全てのアイテムを封印するということで、かなり苦労されたということでした。

以後順次加工制限の緩和や輸出の対象品目が拡大され、平成14年度にニット製衣類(61類)の追加、海外ストック取引(ストック暫8:今で言う関税暫定措置法施行令第22条第2項ただし書き)が整備され、微調整を重ね現在の制度へとつながっています。

この制度を用いて主に輸出入されている製品は圧倒的に61類、62類の編物、織物の衣料品です。
革製品なども一部制度の対象となっていますが、あまり利用されていないように感じます。

2012年5月17日木曜日

関税暫定措置法第8条(通称:暫8)の話:その1制度の概要

取るに足らない話が続いたのでここらで実務の話もしてみたいと思います。

通関業者でアパレルを扱っているのであれば、表題の関税暫定措置法第8条(通称:暫8)について、見聞きしている方もいるかと思われますが、今回はその話です。

予備知識として関税暫定措置法第8条とは、加工再輸入減税制度のことを指し、日本から外国へ原材料を輸出し、輸出許可の日から1年以内に製品として輸入される場合、製品に係る原材料価格相当分(いわゆる材料費+輸出にかかる経費(除く消費税))の関税を軽減する制度のことを指します。
減免税の対象となる製品は、革製のかばんや財布、服などの繊維製品、革製履物の甲、革製の自動車用腰かけの部分品があり、輸入するそれぞれの製品について使用できる原材料に決まり(縛り)があります。

この法律の趣旨としては、現在アパレル製品の輸入については、食品や汎用製品などと同様に国内産業の保護の為、おおよそ7~12%程度の関税が課されています。
しかし、諸外国特にアジアの人件費は日本とは比較にならないぐらい安く、また途上国においては経済の発展の初期段階として、多くの雇用を生み出すアパレル産業は重要な産業となることもあり、これ以上の関税を課すことで日本国内産業を守るのは難しい状況となっています。
そうした競争力の観点から日本では縫製工場の数が減り、縫製工場が減ることにより原材料となる生地や糸を提供する各企業の競争力まで削ぐことになる、そこで苦肉の策として考え出されたのが今回主題となる加工再輸入減税制度=関税暫定措置法第8条です。簡単に説明すると日本から輸出された原材料を使って、委託加工貿易を行うことで、その原材料分については関税を減税しますよ、という制度となっています。つまり日本の縫製工場は保護することはできないが、機能性繊維などの技術においては世界最先端の技術を持つ、日本の繊維産業を保護する為の法律とも言えます。

皆さんが買っている服の中にもこの暫8を用いて輸入された製品がありますが、タグの原産国表記については、縫製など最終的に製品にした国が表記されることになっている為、見分けることはできません。ただ、女性用の衣類やビジネススーツ、スポーツ用の多機能衣類やボタンや裏地、現地での入手が難しい物などは日本から輸出され、製品として輸入されることが多いようです。もちろん暫8を用いずに日本から原材料を輸出し、現地にて加工後通常輸入の形で流通している商品もあります(むしろこちらが主です)。

今では二国間や多国間でのEPAを用いることが増えてきましたが、現在日本にとって最大の貿易相手国であり、世界で最多の縫製工場を持つ中国との間にEPA等の締結がなされていないこともあり、まだしばらくこの暫定法は延長されると考えられます(2012年5月現在、2016年3月31日まで)。

2012年5月14日月曜日

通関士のこれから

通関士の未来について、先の事は誰にも分かりませんし、自分が今まさに通関士としてサラリーをもらっている為、贔屓目になるかもしれませんが、それも踏まえながら通関士としてこれから先の事を書いていきたいと思います。
通関士という仕事はこれから減っていく、若しくはなくなるのか、それとも職域が広がり更に発展していくのか、これは私の予想ですが、通関士の数は微減~現状維持しながらも職域を広げていくのではないかと考えています。

通関士の数が減っていく、即ちマイナス面に影響するのが、貿易の量の減少です。現状不況不況と言いながら長い目で見れば若干右肩上がりの昨今の貿易統計ですが、成長著しい東南アジアの台頭、日本の人口の減少など、輸出主体の経済活動が減っていくことは避けられないとでしょう。
通関業者の仕事は受動的な仕事である為、貿易量の減少は売上の減少に顕著に結びつき、その為現状でも通関業者の人員は少人数でやりくりしているのですが、顧客の奪い合いによる過当競争の結果として営業利益の減少なども重なり、更なる人件費削減の方向へ繋がるのは容易に想像できます。
またこれからは通関業者の合併、解散も避けられないのではないでしょうか。更にMOL、NYKなどが参加するアライアンスの航路再編に伴い本船の寄港地が減ることにより、地方港の通関業者などは特に厳しくなるものと思われます。

プラス面としては、税関自体が職員数を減らしている傾向もあり、更に通関士の数も減るとなると税収の2%を占める関税の収受、日本の経済指標となる貿易統計の質に影響し、経済活動へ悪影響を引き起こすことになるので、そういう点で一定数の通関業者及び通関士は必要になります。
人によってはEPA、TPPなど二国間、多国間の貿易協定により、極端に言うと関税がなくなることで通関士の仕事もなくなるという方も居られますが、そのような事は絶対あり得ないと断言できます。
アジアを中心としたEPAの進展によって輸入時関税がかからない事例は確かに増えてきております。しかし、通関士が行っている仕事は関税が有税だろうが無税だろうが全く変わりません。現状関税の有無に関わるのは、HS CODE、輸出国、特恵受益国、2国間及び多国間経済協定及び特殊関税(報復関税etc)などですが、通関士が行うのはそれら税番を適切に選択することであり、その後の細かい計算はNACCSがしてくれます。
逆に昔よりも貿易のやり方が多様化したことで、通関士に求められる知識は膨大なものとなっており、個々の通関士の質を高めることが今以上に求められることになるでしょう。

また通関士は通関業者に留まらず、商社や国際的な物流企業でも力を発揮する日がやってくるでと思います。輸出入の通関業務は今後通関業者を通さず、荷主自身で申告を行うことが増えてきます。これはAEO制度や昨年の保税搬入原則の改正などに見られるように、特に輸出において内陸地の拠点や倉庫を意識した法整備が進められていることからも明らかです。荷主の側も物流コストを以下に削るかを常に意識しているので、通関件数が多い荷主にとっては、自社通関をすることはコストカットに大きなプラスになります。そうなると通関業務の専門家である通関士経験者が、NACCSを用いて税番の選択や諸々の手続きを荷主の立場として行うようになるのではないかと思います。

いろいろと書いてみましたが、通関士の仕事は今後更に専門性を増し、通関業者に雇われる通関士としてはある程度の需要を満たし、荷主にとっては通関業務に詳しい人材がコストカットとコンプライアンスの遵守につながることで、必要性を増すと私は考えております。
望むべくは景気の回復と、輸出入の均衡を保ちつつ貿易量が増えていけば良いのですが、こればかりは考えたところでどうすることもできないので、日々研鑽しつつ、どのような状況でも必要とされる通関士としてのスキルを身に付けたいですね。

2012年5月3日木曜日

通関非違について

通関業者と通関士の実力を測る指標として、「通関非違発生率」というものがあります。

通関非違とは、輸出入の申告時に税番や数量の誤りや、タイプミスなどにより発生する通関業者及び荷主より受け取った書類の等の間違いが原因で発生する誤りのことで、毎月税関により集計され、後日「非違発生件数/率」として配布されます。

管轄税関によって非違発生率の伝え方は多少違うようですが、官署内の全ての通関業者の申告件数と非違の発生件数を計算することで、全体の非違発生率の平均を下回る通関業者は特に問題は無いのですが、非違の発生件数が継続的に平均を上回る通関業者には、税関より改善などの指導が入ることもあります。

この通関非違は区分2(書類審査)、区分3(開品などの貨物検査)に対し発生するのですが、本年度の実績評価の実施計画(関税局・税関関連)に気になることが記載されていたので紹介したいと思います。

http://www.customs.go.jp/seisakuhyouka/H24keikaku/file/5-3.pdf

リンクの2枚目になるのですが、

「審査・検査における非違発見件数」を設定し適正な申告を確保するための取組み状況を測定します。24年度の目標値は、過去5年の非違発見件数の平均件数より増加させることとします。

と書かれており、つまり申告時の書類審査、貨物検査を重点的に行うことで、非違の発見件数を過去5年の平均件数との比較で増加させるとあるのですが、通関業者が努力して減らそうと日々努力していても、このような取り組みを行うということは、重箱の隅をつついたような非違で件数を増やそうとするのが目に見えています。

通関業者は書類の作成、入力、チェックと2人以上が同じ書類に目を通すことで間違いを減らすようにしている業者が多いと思います。しかし、書類によってはインボイスのページが20ページ以上、項目が数百アイテムにのぼるものもあり、このようなものは作成した内容を全てチェックすることは不可能です。
これは税関も同じで、輸出入ともに通関業者は本船のスケジュールに合わせほぼ同じ日時に申告を行っていますが、この申告のタイミングが重なることで税関でも審査書類が溢れ、全てに目を通し適性に申告がなされているかをチェックすることは現状時間的にも人員的にも不可能です。

そうなるとどのように限られた時間内に許可を得ているのかと言うと、詳しくは書けませんが、これは締め切りに合わせて通関士と審査担当の税関職員との阿吽の呼吸で行われているのが現状です。

しかし、今回このような指針が出たことで、平均値より非違発見率が低い税関職員、通関部門はなんらかの指導がなされるのではないか、非違の発生件数を上げる為、今までより書類審査に時間がかかるようになるのではないか、貨物の検査時に細かい数量まで念入りに見るようになるのではないかと考えられます。

通関非違はタイプミスのような軽易なものでも、税番間違いのような重大なものでも等しく1点として計上されます。
上記のような取組を行うのであれば、保税のように非違の内容別に点数を設けて、通関業者と通関士にとってより改善点がはっきりと分かるような基準を明確にしてもらいたいと思うのですが、実際問題どう運用されるか今年度は注目していきたいです。
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